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ゾンビつかいの弟子 一

by 森戸 麻子

第一部 受験生篇

一章 不穏

1.

 バスは山あいの国道を走る。道は左右に迫る森や崖をくねくねと避けながら、緩く、絶え間なく、上り坂であり続けた。

 この先は隣県へとまたがる山脈だった。

 いずれ山の「本体」へとぶち当たり、長い長いトンネルへ突入する道なのだが、今はまだのらりくらりと障害物を躱しながら上り続けていた。

「面白い?」僕は、窓に貼り付いて森を見つめているビィに、そっと声を掛けた。

「ん」ビィは振り返って、急にしなだれかかり、僕の脇のすぐ下に両腕を回してきた。

 彼女は小柄なので、その高さで僕の身体にぴったりフィットした。無理やりポニーテール風にくくったボブカットの茶髪が、だんだんほどけて落ちかけていた。

 僕は胸の高鳴りを抑えつけ、無心になりきって彼女の肩を抱き寄せた。

「山とか森って、見てると気が滅入るね」と、ビィは言った。

「そうか」僕は抱き寄せた手を少しずらして、彼女の顔の横にあてた。「そんならもう眠っときなよ」

「でも、もうすぐ着くでしょ」

「どうかな」

 ほとんど貸し切りに近かったバスは、山脈の一歩手前の村落に僕たちを降ろし、黙って走り去った。辺りは静かではなかった。この国道は、隣県へと抜ける三本の道の一つであり、うち唯一の無料道路だったから、今も長距離トラックや乗用車が飛び交っていた。

 バス停のすぐ脇から、森に向かって徒歩で登れる遊歩道があり、僕たちは迷わずそこへ入って行った。森は崖のようにせり出した小山を覆っており、軽めの登山道のようなものだった。僕はビィを先に行かせて、そのすぐ下を守るように踏みしめていった。

 明るい黄色のホットパンツから伸びる彼女の足は、健康的なししゃも型だった。足元は、カラフルで実用的な形のスニーカー。よく履き慣らされていた。

 午前中に雨でも降ったのか、それとも、森に常にある湿気のためなのか、鼻がツンとするほどの土のにおいと、水の香りがしていた。その空気は、僕にとっては異質なものだったが、なぜか懐かしく安らいだ気分をもたらした。

「お兄ちゃん。はーやく」

 ビィは既に僕を引き離しており、先の急カーブの手前で振り返って僕に手を振った。彼女の可憐な声はどこにも反射せず、樹々の木の葉の合間に吸い込まれていった。

 僕は気持ちを切り替えて、歩幅を大きくした。

 上り坂が下り坂に転じると、「墓地」になっている区画が現れた。そこだけは下草が頻繁に刈られ、斜面には足場として幾つもの飛び石が埋め込まれていた。木もまばらで、人の手で植えられた若木ばかりだ。たった今抜けてきた森に比べると、眩しく、暖かく、俗っぽい場所に見えた。

 ぽつり、ぽつりと、若木に卒塔婆が添えられている。寺で使う重々しい卒塔婆ではなく、簡素でかわいらしいデザインの、シンプルな細板が多かった。名前が書いてあるものもあれば、日付や、挨拶のような文章が書かれているものもある。何も書かれていない白札も、ときどきあった。

 僕は、その先の道が分からず立ち止まってしまったビィに追い付き、腕を取って妹の墓に案内した。

 ごくごく細い、白樺の若木と、それに寄り添う素っ気ない卒塔婆が、僕とビィを迎えた。僕は、目を閉じ、何かを祈ったが、妹は応えなかった。応えているのかも知れないが、僕には聞こえなかった。

 僕とビィは白樺の前で、立ったまま食事を始めた。元からその約束で、コンビニでおにぎりと飲み物を買っていた。ゴミをうっかり落とさないよう、僕はおにぎりからビニルを一枚剥がすたびに、尻ポケットへ深く突っ込んだ。ビィも、ホットパンツの小さなポケットに、器用にゴミを詰め込んだ。

 斜面の下方から、複数の足音が登ってきた。団体の墓参りだろうと思い、僕はそちらに顔も向けなかった。

 しかし、ビィは急に食べかけのおにぎりを残り全部口に詰め込んで、僕に抱き付いてきた。

「ん」

「何、あいつら」ビィは口をもごもごさせながら言った。

 僕は斜面の下方を振り返った。

 真っ赤な服を着た集団が乱暴な足取りで登ってきていた。

 赤いシャツ、赤いジャンパー、赤いジャージ、赤いズボン……揃いのユニフォームというわけでもなく、それぞれ自分が用意できる範囲内で赤い服を身に付けている様子だ。だから、色味も微妙に違う様々な赤が入り乱れていた。それが余計に、鬼の集団みたいな印象を与えた。

 先頭の若者はリレーのアンカーが使う大鉢巻きを額に巻いて、余りを背中に垂らしていた。

 馬鹿っぽい奴だな、と僕は思い、それが最大限、顔に出るように努めながら、今一度ビィを強く抱き寄せた。

 先頭の若者はふいに偉そうに片手を挙げて、他の者たちを止まらせた。

 僕と若者は三十歩ほど離れていた。

 間には、植えたばかりの苗木と卒塔婆がいくつかあって、つまり、それは最近埋葬された者たちがそこにいることを意味していた。

 集団は若者を合わせて八人で、よく見ると髭づらの大人や、色気の無いなりをした女も混じっていた。全員が怪しい目の輝きを持って、僕とビィを睨んでいた。

 ことに、先頭の若者はよく光る茶色い目をしていた。肌が白く、髪も金とあって、見ようによっては白人のようにも見えた。

 若者はその光る目で僕たちを存分に観察し、しばらくして後ろの手下どもに何か合図をした。赤服の集団は少しざわめいたが、若者が振り返って強い口調で何か言うと、不服そうにうなったり、舌打ちをしながら、回れ右して斜面を下って行った。

 けだものどもがいなくなり、けだもののリーダーだけが残った。若者は打って変わって優しそうな顔になって、僕たちの方へ近付いてきた。

「すみません。お参りにいらした方ですか」帽子のつもりなのか、若者は額の大鉢巻きを外して、こちらに寄りながら会釈をする。

「見れば分かるでしょ」しっかりと僕に抱き付いたまま、ビィが鋭い口調で言った。

「さあ、それが最近は」若者は長めの金髪をごしごし掻き上げた。「どうだか分かりませんもので。あの者たちは僕の指揮する自警団なんです。近頃、よく、『何か』出ますんで」

「『何か』って?」と僕は聞いた。

「さあ、何でしょうね。鬼か、ゾンビか、妖怪か……とにかく人の姿をした害物ですよ」

「君らのほうが、そう見えるけどね」と僕は言った。

 得体の知れぬ人間のようなものの群れによる被害は、ときどきニュースになっていた。ただ、なにぶん大抵は山奥や、寂れた漁村で起きることなので、都市に住む僕らにはそれほど実感のないものだった。当初こそ大きく騒がれ、マスコミが独自調査隊を出すこともあったが、今では他の都会的なニュースに押し流されて、誰も注意を払わない。

 大雑把には、正規の手続きを踏まずに入りこんだ難民の類だろうと考えられていた。

 若者は僕らより五、六歩手前で止まった。

「これ以上用はないでしょ」ビィが完全な喧嘩腰で言い放った。

「何と言うか……、もうここに来ない方がいいですよ」と、赤服の若者は言った。

「でもここ、僕の家族の墓なんだけど」

「家のお仏壇で済ませた方がいい。ほとぼりが冷めるまで……まあ五年か、十年もすれば」

「余計なお世話だよ」

「理由をお聞きにならない?」若者は変な茶色に光る目で薄気味悪く笑った。「僕らが冗談でこんなことをしてるとか?」

「知らないよ。もう帰ってくれない?」

「バスで来たんでしょう。送りましょう」若者は僕らが下って来た山道を目で示した。

「バスは二時間後だよ。それに、最終は六時半だから、どのバスに乗るかはこちらの勝手だ」

「じゃあ、僕の車で送りますから」若者は下り坂を示した。「どうぞ、もうここは離れて」

「なんでだよ」

「もう、そういう決まりなんです。他所から来た方に嫌な思いをしてほしくない。安全にお帰りいただくよう手配をしないと、僕が後で怒られる」

「こっちが知ったことか」

「お兄ちゃん」ビィが、抱き付いた腕を更に食い込ませて、「乗せてもらおうよ」と言った。

「ただし、蕎麦をおごってくれればね」ビィは妙な条件を出した。

 若者は快諾した。

 三人で山を下りると、町が現れた。

 農家と田んぼだけだろうと思っていたのだが、意外にも道路は整備され、その両脇に大型チェーン店がぽつぽつと立ち並び、それなりに車が行きかっていた。

「少し歩きますよ。十分……十五分くらい」若者は真っ赤な大鉢巻きを額に巻き直しながら言った。

「蕎麦屋があるの?」

「いえ、まず車です」

 舗装された広い歩道を歩いて行くと、たまにすれ違う人が若者の赤服を見て会釈をした。

「君って校長の息子とかなの?」僕は半分皮肉交じりに言った。

「いや。みそっかすですよ。古い言い方だけど」

「じゃあなぜ、皆が頭を下げる?」

「田舎だから。格別知り合いじゃなくても、すれ違うときに挨拶するものなんです。特にこの服なら、確実に地元の人間だと知れるから」

 コンビニの裏手に建っている、そこそこ歴史のありそうな一軒家が、若者の実家のようだった。

 彼は僕たちを門の前で待たせて一度家に入り、五分後に出てきたときには、普通の若者らしいカジュアルな服に着替えていた。

 そうしてまともな服を着たところを改めて見ると、やはり彼はハーフの顔だちだった。

 彼は家の脇のコンクリ固めの駐車場から、ワンボックスタイプの軽自動車を出した。

 僕とビィは、後部席に並んで座った。

「この近くの蕎麦屋じゃないと駄目だからね」と、ビィは念を押した。

「『えんどうや』がいいでしょう」若者は狭苦しい農道をくるくると抜けていった。

 えんどうやは別な小山を越えて国道側に下りたところにあった。国道沿いを来る客を相手に商売をしているからだろう、田舎臭さはあまりなく、店の内装も接客も、簡潔だった。

「これくらい美味い蕎麦、街じゃ食べられないからね」

 ビィはそれだけ言うと、幸せそうに天ざるをすすって、後はほとんど口をきかなかった。

「どこまで送ってくれるの?」僕は若者に確認した。

「どこか、都合の良い駅まで」若者は街なかのハブ駅に直結するローカル線の駅名を二つほど挙げた。

「君たちは、それで、何をしてるの?」

 結局、話題が無いので僕はそう聞くしかなかった。

「防衛、ですかね」

「どんな被害が出るの?」

「人が攫われたり、女性なら、襲われたり、物を壊される、盗まれる、あとを付けられる……」

「本当にそういう『何か』がいるの?」

「いますよ」若者は柔らかく、断言した。

 しばらく、三人が蕎麦をすする音。

「それは、結局、なんなの?」僕はあんまり聞きたくなかったが、一応聞いた。「捕まえたことあるんでしょ? 捕まえたら、どうするの? 警察?」

「殺してしまいますね」若者は何でもないことのように言った。「というより、壊してしまうというべきか」

「人ではないから、殺してもいいということ? なんだか、すごく犯罪のにおいがするけれど」

「ええ、でも、実物を見ればすぐ分かりますよ。ヤツラは、人ではないし、生き物ですらないんです。だから、ちょっと手間のかかる虫退治みたいなものです。大きさがかなり大きくて、人の形をしているというだけです」

「なんだか気味が悪いね」

「まあ不気味ではあります」

「そうじゃなくて、君たちが、だよ」

 僕がそう言うと、若者は少し顔を曇らせた。しかし、腹を立てた様子はなかった。野蛮人だと思っていたが、案外と理知的な人間だった。

「楽しそうだよね」ずっと黙っていたビィが、そう言った。「倒すべき敵がいて、毎日暇じゃなくてさ」

「そうかも知れません」若者は丁寧に答えた。

「街へ出ないの? 他の仕事をしないの?」

「そんな度胸のない連中が、自警団をしてますからね」

 約束通り、若者の奢りで店を出た。

 再び軽自動車に乗り、山間の国道を街の方角へ走り出した。

 ときどき、後ろから長距離トラックが迫ってくると、若者は退避路を使って先へ行かせた。

 ビィは後部席で、僕の手をずっと握っていた。僕も黙って握り返していた。

 若者はカーラジオをつけて、少しボリュームを上げた。しばらく聴いていると、それはラジオではなく民放のテレビ局の音声だと分かった。

『宮城県警は、今年に入ってからの交通事故が、既に去年一年間の事故件数を超えたことを受けて、交通事故非常事態を宣言しました。同様の宣言は、他に埼玉県や茨城県など、各地で発令されています。……なるほど。それは何か、原因や傾向といったものはあるんでしょうか。……そうですね、ひとつには、異常気象が関係しています。例年より天候の悪い日が多く……』

「ところで、聞いてもいいですか」若者が突然言った。

「どうかな」と僕は言った。

「あなたたちふたりは、兄妹ではないですよね」

 僕は迷ったが、「どうしてそう思うの?」と、陳腐な返し方をした。

「似ていないし、なんとなく、家族らしくないから」

「別に、兄妹だと名乗った覚えはないけど」

「けど、恋人という感じでもないし、墓参りに来る組み合わせとしては、変わってるなって」

「ほっとけば良くない?」と、ビィが言い返した。

 僕とビィはSNSで出会った。

 妹を失って、ネットしか気晴らしがなかった僕に、ビィはバーチャル妹という役で構ってくれた。

 何年にも渡ってネット上だけの付き合いが続いた。ふたりとも用心深く、オフ会をせず、音声通信もしなかった。オープンなSNSで、テキストと画像だけのやり取り。それが長続きのコツだったのかも知れない。

 生身で会いたいと言ってきたのは、ビィのほうだった。

 十八歳になったので、自分で自分に禁じていたオフ会を、解禁すると。そして、僕も今年大学受験を迎えるにあたり、ひとつの区切りを付けたいと考え、応じることにした。

 ずっと互いの年齢も明かさずにいたが、僕とビィは同い年だった。

 僕とビィは、現実的な意味では、出会ったばかりでありながら、その関係は終盤を迎えていた。

 こうして生身で対面することによって、互いの抱いた幻想が崩れてしまうことは分かっていた。それでも、生身の彼女に別な魅力を見つけられる可能性を僕は淡く期待していた。

 しかし、ビィはもっと冷たく割り切っていた。

 年に数回、本物の妹さんのお墓にふたりでお参りしましょう。私たちはそれだけの関係になるべきなの。お兄ちゃんと、初めてオフで会ったとき、ひとめ見た瞬間に、そう分かったのよ。

「着きますよ」若者が言った。「電車、すぐ来るといいですね」

 田んぼの真ん中にぽつりと建った駅舎が見えてきた。ロータリーに入ると、なぜか救急車とパトカーが停まっていた。ほとんど無人駅のようなもののはずなのに、今はなぜか駅舎の前に人だかりができていた。

「っ」若者が突然、鋭く息を飲んだ。

「え?」

「顔を隠せ!」若者は叫んで、アクセルを踏んだ。「顔を隠すんだ! 見られるな!」

 軽自動車はロータリーを豪速で一周し、元の道へ飛び出した。

 僕もビィも、顔を隠さなかった。特に、ビィはしっかり窓に張り付いて、顔を後ろに向け、駅舎の前の人だかりを見つめていた。

「何をしてる!」若者はビィのしている事に気付いて怒鳴った。

「うるさいよ。もう見ちゃったもの」ビィは強気に言い返した。

「何だったの? 何なの?」僕もイライラした。「どこへ行く気?」

 若者はスピードを緩めず、次の信号に捕まるまで一分ほど、無言だった。色白の顔が紅潮して、何度も荒く溜息をついた。怒っているのではなく、怯えている様子だった。

 信号が青に変わる。若者はまたアクセルを踏み込んだ。

「仙台駅まで送ります」若者はこわばった声で言った。

「どうして?」と僕は言った。

「あれが、あなたの退治してるヤツラ?」ビィが聞いた。

「駅なんかに出たことなかったのに」若者は辛そうに吐き出した。「ふたりとも、あれに顔を見られた?」

「見られたらどうなるの?」と、僕は聞いた。

「ヤツラは顔を覚える。そして追ってくる」

 真後ろにトラックが付いたが、若者は譲らず、更にアクセルを踏んだ。

 既に、街の中心へと繋がる、長い太いバイパスに入っていた。

「あなた方の家は都会なの?」若者は険しい顔のまま聞いた。

「まあ、君の住んでるところよりは」

「それが何か関係あるの?」とビィ。

「ヤツラは、人混みを処理できるほど性能が良くない。顔を覚えられてしまったとしても、都会に紛れてしまえばとりあえずは安全だと思う」

「どういうことなの。ちゃんと説明してくれないと」僕は思わずきつい口調になった。「それに、ヤツラは君の親の敵だか知らないけど、そういう言い方って気持ち悪いよ」

「お兄ちゃん、見なかったの?」と、ビィが薄く笑った。

「え?」

「あれはゾンビだよ。人型だけど、人じゃない」

「何を見たんだ?」

「だから、ゾンビだよ。ね、あいつら、噛む? 私にも伝染る?」ビィは運転席の方へ少し身を乗り出して、若者に尋ねた。

「伝染りはしない。ただ暴力的なんだ」若者は暗い声で言った。

「僕の名はカミシロと言います。神様の神に、ホワイトの白。これ、僕の携帯なんで、もし何か困ったら連絡をしてください」

 若者は仙台駅のロータリーで僕たちを降ろす前、電話番号を殴り書きしたメモをくれた。

「何かって、何?」と僕は聞いた。

「何か危険を感じるようなこと」

「もしそんなことがあれば警察に行くよ」

「もちろん、僕が必要なければ、それに越したことはないんだけど」

「なんだかよく分からないけど、助けてくれたんだろうね」と、僕は言った。

「ありがとう」と、ビィは短く言った。

 駅前のロータリーは混み合っていて殺伐としていたので、僕たちはそれ以上長引かせずにそそくさと降りた。

「気をつけて」窓を下げてそれだけ言うと、神白はすぐに車を発進させ、大通りへ出て行った。

 僕とビィはそれぞれ自分のスマホに神白のくれた番号を登録し、その駅で別れた。

 まだ日が暮れていなかったので、名残惜しい気がしたけど、ビィは県外から来ていたし、なんだか疲れたので早めの新幹線に乗りたいと言った。

「また連絡ちょうだい。次はお盆かな」ビィは改札をくぐる前、そう言った。

 僕から連絡しない限り、もう会えないのかも知れないな、と思った。

 さよなら、僕の、偽物の妹。

 家に帰って、母の作った夕食をたべ、あれやこれやを済ませた。

 びっくりするほど日常で、神白が恐れるような妙なことなど、起きそうになかった。

 しかし、いつもの習慣で寝る前にスマホをいじり出したとき、僕はあるニュース記事を見つけて身震いした。鳥肌ってほんとに立つんだな。

「人身事故」?被害者見つからず 宮城県

 宮城県の仙山線**駅で、本日午後二時半頃、人身事故と思われるトラブルのため電車が緊急停止した。「人をはねた」との運転士の通報により、警察、消防隊が駆けつけたが、付近に死傷者は見つからず、電車は二時間後に運行を再開した。運転士の他、ホームにいた数名の乗客が「線路に飛び込む人影を見た」と証言している。……

 ゾンビ。死なない人型。ビィや神白は、いったい何を見たのだろう。

 その夜、僕は一晩中、悪夢にうなされた。

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